Polynesian Marquisesポリネシアン マルケサス諸島

マルケサス諸島のトライバルタトゥーのデザインはマケージャスタイルと呼ばれ、部族ごとに決められたモチーフを持つ総身彫りですが、黒の面積が大きい直線的なパターンが特徴的です。

サモア、トンガから始まりポリネシア全域へと広がって行き数千年にもわたって進化を続けていったトライバルタトゥーの文化は西暦200年頃にマルケサス諸島に至り大航海時代後のヨーロッパ人による入植にともなう終焉までの1000年以上の期間にさらなる発展を独自に遂げ、ポリネシア芸術としてその輝かしい一つの頂点といえる隆盛期を迎えたと言えると思います。

ほとんどの者が全身を覆うというところまで進んだタトゥーの面積が物語る文化としての大きさ、あらゆる制約から自由になったかのような豊富かつ複雑なトライバルデザインのバリエーション、そしてそれらの表現をすべて可能にした精巧な技術の熟成。

これほどまでの文化にもかかわらず、多くの研究者が資料を残せるぐらいの時代までキリスト教宣教師の布教活動に抗いながらも細々とタトゥーが存在していた他の島々と比べて、非常にあっさりと途絶えたような印象があるのですが、そのことをマケージャトライバルデザインの、日常生活に関わるありとあらゆる物をデザイン化してしまうような奔放さと合わせて考えると、当時のマルケサスの人々にとってのタトゥーとは因習的な重い要素からはすでに解き放たれ、最もカッコいいファッションというぐらいの領域にまで一般化していたがために、流行したものほど跡形もなく消えてしまうというポップカルチャーのように、西洋文化という新しいファッションにいとも簡単に取って替わられたという側面があったのではないだろうかなどと感じます。

南太平洋のニュージーランド、イースター島、ハワイ、その3つを直線で結んだ枠内のポリネシア文化圏。4月上旬、そのほぼど真ん中に位置するフレンチポリネシアのタヒチ島にてポリネシアタタウコンベンションが開催されました。世界中から観客を集めた華々しい商業的巨大コンベンションがこの地で開催されはじめたのがおよそ15年前。現在の到達点から振り返ってみると、あれはほんの萌芽に過ぎなかったのだと改めて感じます。もろもろの曲折や葛藤を乗り越え、その作品世界とともにスタイリッシュに進化を遂げた地元アーティスト達による新たなる試みの幕開けです。

半年ほど前、かつてタヒチで勉強していた頃のアーティスト仲間から彼等のコンベンションへの誘いを受けました。いわく、ホテル代金やブース代金もいらないから遊びに来なよ、的な軽いノリのメールでした。さっそくどんなルアーでメーターオーバーのGT(ロウニンアジ)を攻略するか、などのトロピカル妄想を膨らませていたのですが、ほどなく発表された内訳によって完全に目が覚めました。タヒチを中心としたフレンチポリネシアのアーティスト40人、海外からの招待アーティスト10人。ハワイ、サモア、ニュージーランド、オーストラリアのお馴染みポリネシアグループ。それぞれギンギンの一流アーティスト達。これらの人々と1ヶ所でまとめて会えるとはなんと便利な催しなのだろうと思っていると、ボルネオのジェレミー・ローとフィリピンのエレ・フェスティンのエントリーです。あっ、と思わず声が出ていました。これは単なるポリネシアタトゥーの祭典ではなく、それ以上の狙いを以て組まれた集まりだという企画者の意図が伝わって来たからです。リバイバル。復興。再構築。一口に言ってしまえばまさにその通りですが、それがどのようになされているかは様々な位相に分かれています。

例えばボルネオトライバルタトゥーは80年代半ばから90年代初頭の世界的なトライバルタトゥーブームの重要な立役者であり、世界中の部族タトゥーのなかでも群を抜いてリバイバルに関しては先駆的存在であると言えましょう。ちょうどそのころにポップカルチャーとしてのタトゥーが花開いた日本ではそのブームをもろに受けたせいでしょうか今でもトライバル=ボルネオデザインという一般的な認識が広がっているほどです。しかし、というべきかどうかは分かりませんが、それらは主に欧米の彫師や愛好家たちによるものであり、原住民自身によるアクションではありませんでした。ボルネオ先住民の若者たちの間では自分たちのアイデンティティーとして古来のタトゥーを入れようという気運みたいなものはそれほど高まっているようには思えませんでした。今や世界的ビッグネームであるジェレミーのスタジオでも最近ようやく半分くらいのクライアントがイバン族の若者になってきた、とかそれぐらいのものだそうです。

もう一方のフィリピンに関しても、近代的なマシンタトゥーが広がっていくのは駐留アメリカ軍の影響もあり他のアジア諸国と比べても早かったにも関わらず、先住民の意識の中からかつての壮麗な部族タトゥーの伝統を再興しようという動きは今までにほとんどなかったわけなのでしたが、最近になってアメリカに渡ったフィリピン系コミュニティから逆輸入の形でそういう動きが生まれました。今回参加のエレ・フェスティン氏はその代表的な存在です。氏の作品世界はそのクオリティもボリュームも圧倒的であり、タトゥー人類学者ラース・クルタクの『KARINGA』が世にでた時のこのシーンの衝撃は大きかったのですが、リバイバルとしてはまだスタート段階で、内外の多くのアーティストを巻き込んだ一つのジャンルとまではまだなっていません。これなどは最も新しいリバイバルの例でしょう。

こうして見てみると、失われつつあるモノの大切さが分かるのは、それが既に失われてしまった地域や文化の価値観だということ、もっと平たい物言いをすれば、食うに困らない者のみが後ろを振り返るゆとりを持つということになるのでしょうか。これらと比べるとポリネシアの場合、例えばマオリ人はニュージーランド人、ハワイ人はアメリカ人、そしてタヒチはフランス、というようにそれぞれ先進国民でもあるわけで、先住民文化に対する敬意や保護意識がいちはやく育まれた国々の中のゆとりのある先住民です。先ほどの平たい文脈なら、さてと腹は膨れ たし、そろそろ自分たちが何者であるのかアピールしてやるか!的な地元住民ほとんど全員参加の圧倒的な熱さにそのリバイバルの特徴があります。さらに、先述したボルネオやフィリピンでは古来の伝統と現代のリバイバルとがぎりぎり途切れることなく繋がっていますが、ポリネシアではサモアを唯一の例外として他は全て一度完全に失われているということが、彼等のリバイバルを考える上で重要なキーであるとも思います。 僕が四年前にゲストとして入っていたタヒチ島パペーテのマナオタトゥースタジオは、かなり控えめに形容したとしてもポリネシア地域で最も影響力のあるスタジオです。スタッフ数や商売規模が最大というのもあるし、そこで生み出される作品のクオリティが素晴らしいというのももちろんですが、とかくのんびりしがちなポリネシアタトゥー社会の中では異彩を放つほどきびきびしたスタジオです。オーナーアーティストのマヌ・ファラロンはタヒチ島にはじめてコイル式タトゥーマシンを導入してタトゥースタジオを開業した父のもとでローティーンからマシンを握っていた人物であり、マルケサス=タヒチのリバイバルシーンをその初期から作り上げてきたパイオニアの1人です。

Q. ハワイには言葉、サモアには技術、そしてマルケサスにはデザインがよく残っている、と言われています。マルケサスのデザインは基本的にカール・フォン・デン・シュタイネンの記した人類学資料をソースにしていると思いますが、あなたはそれは充分であると考えますか?

A. いえ、まったく不十分だと思います。当時のマルケサス諸島を中心としたこの海域に展開していたタトゥー文化はとてもボリュームがありました。シュタイネンの資料はそのほんの一部についての記録に過ぎません。現代の我々のタトゥースタジオに求められているオーダー内容と照らし合わせても、充分であるとは言いがたいですね。

Q. クラシックなマルケサスタトゥーとあなたの作風に代表されるモダンなマルケサスタトゥーの間には実際の見た目に大きな違いが見られますが、これは何故なのでしょうか?

A. まずはクライアントの嗜好によるものと考えられます。かつてマルケサスのトライバルタトゥーは服と同等のものだったので、大きなスケールでデザインを考える必要がありました。しかし現代ではむしろアクセサリーなどの装飾品に近いと思うのです。そういった視点の変化がデザインを変えてきたのでしょう。

Q. 今後のタヒチもしくはポリネシアの展望をお聞かせください。

A. 今、我々は一つのアソシエーションを作っています。先ほど話題に出た資料が不十分であること、あるいはこれまで個々のアーティスト間で分かれていたデザイン解釈などの問題に皆で協力して取り組み、新しいスタンダードを世界に向けて発信していく段階に我々は差し掛かりました。

引用
著書:「traibal tattoo designs from the americas 」出版:mundurucu publishers
著書:「traibal tattoo design」出版:the pepin press
著書: 吉岡郁夫「いれずみ(文身)の人類学」出版:雄山閣

参考文献
著書:「THE WORLD OF TATTOO」Maaten Hesselt van Dinter著 KIT PUBLISHER
著書:「世界民族モノ図鑑」明石書店
著書:「EXPEDITION NAGA」 著者:peter van ham&jamie saul 出版:antique collectors, club
著書:「MAU MOKO The World of Maori Tattoo」Ngahuia Te Awekotuku with Linda Waimarie Nicora
著書:「縄文人の入墨」高山純, 講談社
著書:「TATTOO an anthropology」MAKIKO KUWAHARA, BERG
著書:「GRAFISMO INDIGENA」LUX VIDAL, Studio Nobel

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