Polynesian Tahitiポリネシアン タヒチ

タトゥーという言葉の語源はタヒチ語の『タタウ』から来ています。トライバルタトゥーのデザインはマケージャスタイルだとも言えますが、曲線がせめぎあうような形に変化を遂げ、黒の面積が小さくなり、線がより複雑な構成になるなど、伝統的なマケージャスタイルとはだいぶ違った印象の、独自のタヒチスタイルです。

植民地化されトライバルタトゥーを失った他の島々と同様、タヒチにもまた一度は失われてしまった彼等のタタウとそれを取り巻く精神世界がありました。タヒチでは聖なる力『マナ』を備え持った人は、そのような力を持たない人々にとっては影響力の刺激が強すぎて危険な存在とされ、『タプ』と呼ばれ、人々と接触できないように隔離する習わしがありました。

たとえば権力をもった部族の長や、新生児、生理中の女性などがそれにあたります。それらの『タプ』は完全に隔離して近寄らなければ問題はないのですが、実生活ではニアミスを避けられないこともままあるため、防護服のようにしてタパという布を使用していました。『タプ』のマナを封じ込めるため、そして己の身を守るために。そしてタタウにもタパと同じように、マナを持つ者の身体からそれの流れ出るのを防ぎ、タプでない者にとってはマナから身を守るバリアーとして機能する性質があるとされていたのです。

他の人と触れ合っても安全な状態になるということ、すなわち社会的人間になることに、彼等のトライバルタトゥーであるタタウはこのような形をとって関わっていたのです。成人儀礼とタトゥーの関連は世界的に多く見られますが、タヒチのこの風習もその中の一つですね。

現在タヒチで盛り上がっているトライバルタトゥーは彼等の伝統とはデザインが異なります。彼等はもともとまわりのマルケサスやマオリ、サモアほどに華やかな個性のデザインの伝統は持っていなかったからです。しかしそれこそが様々なスタイルを取り入れて進化していくタヒチタトゥーの面白さを支えているアドバンテージでもあるのです。

フレンチポリネシアの中心都市パペーテに「mana,o tattoo」を訪ねました。5名以上のアーティストが常に在籍するポリネシア地域最大規模のスタジオです。オーナー彫師マヌ・ファーロン氏(manu farrarons)の父は、タヒチに初めてコイルマシーンを持ち込んでスタジオを構えた人物で、マヌ氏自身もローティーンからマシーンを握っていたという、タヒチのタトゥールネッサンスを肌で知るスタジオの一つでもあります。何か彫られついでに今まで抱えていた疑問をぶつけてみようとポートフォリオ持参で訪問したところ、いきなり翌日からゲストワークするということになりました。

実際に働いてみるとタヒチのタトゥーを取り巻く環境の最大の特徴ともいえる一つの事にすぐに気づかされます。それはクライアントのほとんどが域外からの観光客だということです。このことは施術をスピーディに、コンパクトにまとめなければならないということを意味しています。じっくりなんてやっていたら飛行機に間に合わない、ということです。面積のわりに黒塗りを極限まで抑え、その塗りもライナーの5か7でライナリングと同時にこなしていきます。マシーンのセッティングはハードで高速。一本の手製クラブで全コースをまわる「プロゴルファー猿」みたいな手際のいい彫師がタヒチにはとても多いです。

彫師達は皆、18世紀のドイツ人研究者カール・フォン・デン・シュタイネンの残したマルケサス諸島のトライバルタトゥーに関するスケッチを、ほとんど唯一の手がかりとして現在のタヒチスタイルを築き上げてきたのですが、どこのスタジオにも辞書のように置いてあるこの資料の、あの直線的で真っ黒なデザインが、いったいどのようにして白がちで、曲線的なものに変貌を遂げたのかということの理由の一つがこの体験から分ったような気がしました。

もう一つ、日本という異文化圏でマルケサス=タヒチのオーダーを受ける者としての大きな関心事項として、デザインの意味ということがありました。これはmana,oの他にも複数のスタジオのアーティストに同じ質問を延々と繰り返し続けた結果、なんとなく見えてきたことです。マルケサス=タヒチのシンボルは非常に豊富です。そしてそれは一般にもある程度認知されていることなので、クライアントとしては、タヒチデザインは象形文字のように何でも表現する事が可能であるであるとの印象を抱きやすいところがあります。

そしてそういうオーダーを受けるプロもまたなるべくその期待に応えようとするわけです。たとえば「愛」というオーダーがきたとしましょう。そういう抽象概念を直接に指し示す伝統的シンボルデザインはありません。あるのは神、生物、植物、道具などの無数の具象デザイン群です。それぞれの具象にまつわるイメージをどのように読み解いて豊かに膨らませるかがプロの腕の見せどころということになります。ティキの腕、カメ、ある種の花、ココナツの殻の食器。どれに辿り着くか、そしてそこにどういう物語を乗せるかは職人の感性と知識によって様々ということになるようでした。

融通が利くんですね。タトゥールネッサンスから20年余り。これからは時代のニーズに合わせた新たなシンボルデザインの創造というようなことも、彼等ならパワフルにやり遂げていくのではないでしょうか。

引用
著書:「traibal tattoo designs from the americas 」出版:mundurucu publishers
著書:「traibal tattoo design」出版:the pepin press
著書: 吉岡郁夫「いれずみ(文身)の人類学」出版:雄山閣

参考文献
著書:「THE WORLD OF TATTOO」Maaten Hesselt van Dinter著 KIT PUBLISHER
著書:「世界民族モノ図鑑」明石書店
著書:「EXPEDITION NAGA」 著者:peter van ham&jamie saul 出版:antique collectors, club
著書:「MAU MOKO The World of Maori Tattoo」Ngahuia Te Awekotuku with Linda Waimarie Nicora
著書:「縄文人の入墨」高山純, 講談社
著書:「TATTOO an anthropology」MAKIKO KUWAHARA, BERG
著書:「GRAFISMO INDIGENA」LUX VIDAL, Studio Nobel

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